年間生産食数20億食を超える「冷凍めん」(一般社団法人日本冷凍めん協会調べ:2023年)。20億食のうち11億食超が「うどん」です。そして次に3億5千万食の「中華めん」、2億食の「パスタ」と続きます。家庭用の売場だけを見ていると、あれっ?パスタの方が多いのでは、と不思議な感じがするかもしれませんが、業務用も含めた全体の数値は、ずっと「中華めん」が「パスタ」を上回っています。
しかも「中華めん」は、2022年、2023年と業務用の需要が伸びて好調です。さらに、数量は低めで6千万食超レベルながら「焼きそば」が上昇傾向にありますが、これは、中華系の「あんかけ焼そば」の人気を反映しているものとして注目できます。
カトキチさぬきうどん50周年・キンレイも50周年
さて、冷凍食品の中でも存在感を増している冷凍めん。その歴史はちょうど50年です。テーブルマークは2024年に迎えた冷凍うどん発売50周年にあたって、さまざまなプロモーションを展開しています。また、商品名には入れないものの、玉うどん製品に印刷していた「カトキチ」ブランドでしたが、今回、“テーブルマークの「カトキチさぬきうどん」”として刷新しました。商品自体も自慢のコシに加えてもちもち食感のアップなど、よりおいしくリニューアルしています。
「うどんは冷凍がおいしい」、「おいしい冷凍うどんはカトキチ」と一時代を築いたブランドの価値。それを生かして、さらに、うどんだけではない『冷凍麺のテーブルマーク』を目指していく戦略とのこと。
しみじみと感動が押し寄せてきます。「冷凍=おいしい」を真っ先に知らしめてくれたのが、カトキチの冷凍うどんでした。そのブランドが50年の年に“復活”します。
実は、鍋焼うどんのキンレイも今年12月で設立50周年を迎えます。独自の『二段凍結三層構造』を開発するのは設立の翌年、1975年になりますが、その後コンビニでアルミ鍋入り商品が定番化、さらに2010年からは、スーパー向けの『お水がいらない』シリーズを発売し、これがブレイクしました。同シリーズは先般、累計2億食出荷を達成しています。
冷凍めんはまさに「国民食」だなあと節目の年に感じています。海外に存在しない一大ジャンルなのです。出荷額では昨年、1,332億3千万円(日本冷凍めん協会調べ)でした。
生産食数推移のグラフを見ると、「うどん」は2020年がピークです。コロナ渦中にストックできる便利な主食系食品として特需があったことがわかりますが、まだまだ間口が広がるポテンシャルがあるのだと感じさせる急伸でした。ダントツ人気の素材めんに加えて、具付のうどんでヒット商品が生まれたら、さらに伸びしろあり、でしょう。
「五目あんかけ焼そば」が「横浜あんかけラーメン」を抜く!
先日、マルハニチロを取材して、衝撃のトップ逆転劇の話を聞きました。同社の家庭用冷凍食品売上NO.1商品が、「新中華街 横浜あんかけラーメン」から「同 五目あんかけ焼そば」に代わった(2023年度)のです。確かに同社では需要増に対応して、焼そば生産を2工場体制にして強化してきました。さらに昨年秋には、同社独壇場だった『あんかけ焼そば』マーケットに、ニチレイフーズが「香ばし麺の五目あんかけ焼そば」で参入してきました。そんな環境下で、さらに売上を伸ばしてきたわけです。
つまり独走よりもライバルがいた方が、より良い成績になる、というセオリー。
これは、「味の素」ブランド一強から「大阪王将」が参入したことによって過去10年、冷凍餃子マーケットが盛り上がってきたという現象と同じことが起こったのだと推察できます。
「焼きそば」ジャンルは、業務用も含めるとソース焼そば系も強いのですが、中華系焼そばの人気で、さらに伸びていきそうです。
時空間を飛び越えて自宅で楽しめる冷凍ラーメンのメリット
家庭用の冷凍ラーメンは、コロナ禍中に専門店系の商品が注目を集めたこと、冷凍自販機での販売が話題になったことをきっかけに世間の注目を集めました。その当時に比べると少し落ち着いた感もありますが、「冷凍」によって自宅でおいしいラーメンが食べられる、と皆さまにお知らせできた効果は大きかったと思います。
コロナ前から専門店の味わいのネット販売で実績を挙げていた「宅麺.com」(グルメエッスク㈱:旧グルメイノベーション㈱)は、今年が14周年。累計販売食数は約380万食とのこと。地方の有名店のラーメンが自宅で食べられる、という冷凍ラーメンのメリットをいち早く伝えた企業といえますが、宅配の領域を超えて、実店舗での取り組みが注目を集めています。
7月にオープンしたイオンリテールの「@FROZEN新瑞橋店」(名古屋)です。なんとロボットラーメンソムリエのペッパー君が売場に立ち、お客様の顔を見て「宅麺.com」のオススメラーメンを教えてくれます。
ラーメン通販サイトでは、イートアンドホールディングスでも、コロナ禍中から「ラーメンJourney」を事業展開して、伝説の名店、支那そばや本店の「至福のかけそば(醤油)」はじめヒット商品を生み出していますね。一度は行ってみたい店、味わってみたいあの一杯を冷凍食品なら自宅にいて実現できるのです。
大手メーカーも進化形 デュアル調理、天一、二郎インスパイア系も
大手メーカーのラーメン商品もこの秋は、注目の商品が目白押しです。専門店商品の宅配よりリーズナブルなプライスで本格的な味わいを提供して強みを発揮しています。
5月発売のキンレイ「お水がいらない 天下一品」は、天一こってりスープを再現した冷凍めんとして早くも話題になっています。お鍋にポンと入れて温めるだけが特徴の『お水がいらない』シリーズですが、同商品は麺がほぐれてからグツグツ30秒煮込むことでお店の味を再現します。
監修商品、具材たっぷりをコンセプトにしたテーブルマークの『まるぐラーメン』シリーズ新商品は、「燈郎監修 まるぐ 濃厚豚骨醤油ラーメン」です。初の二郎インスパイア系ラーメンの登場が話題です。二郎系といえば、朝のテレビで人気のアニメ「ちいかわ」に登場する「郎」ラーメン。汗をかいてラーメンをすする主人公たちを見ると、無性にこってりにんにくの効いたラーメンが食べたくなりますね。そんなニーズに応えてくれそうです。
驚きの新商品は、食べる時に汁なし・汁ありを選んで調理できるという『デュアル調理』の新商品、ニチレイフーズの「本当に旨い担々麺」です。容器付でレンジでの簡単調理です。冬は汁あり、夏は汁なしの商品を買う、というイメージが覆る新商品です。
焼きそばにも新メニューです。ニッスイの「わが家の麺自慢 かた焼きそば 五目あんかけ」は、同社のロングラン商品「長崎風皿うどん」の姉妹品的位置づけ。皿うどんは、パリパリの揚げ麺(常温保管可)ですが、新商品は、サクサク食感の揚げた太麺(同)です。これが香ばしくて食感が楽しくて、びっくりしました。人気商品の達人は、「あん」だけ冷凍庫にしまい、かさばる揚げ麺は常温保管するそうです。半分冷凍食品のおもしろい商品です。
日清食品冷凍は、この秋『日清本麺』を刷新して、基本フレーバー4種を揃え、シンプルで少しリーズナブルなシリーズに転換しました。定番フレーバー、鶏がら醤油、濃厚味噌、ホタテだし うま塩、豚骨醤油の4つから気分で選べるという提案です。
各社の開発魂が可能性を広げる
冷凍食品の中で存在感をますます増してきた冷凍めん。その中でも中華系に絞って見てきましたが、書いているだけでお腹が鳴ってきます。出来立てのラーメンを思い浮かべるからですね。香り立つその一瞬は、まさに至福。その「本物の味」を体験できるのが冷凍ラーメンのメリットではないでしょうか。
上述の『デュアル調理』の例に限らず、冷凍めんの可能性はまだまだ広がりそうです。それはメーカーの開発魂によって開拓されていくのです。