3月初旬、日本食品業界の大イベント、FOODEX JAPAN2023が開幕した時、私は遠い空の上、、、いえいえ、生きています。元気にこのコラムを書いています。 3年数カ月ぶりの海外取材に、心ワクワク。台湾に向かう空の上でした。 訪台の目的は、台湾の冷凍食品トップメーカー、桂冠實業股份有限公司(台北市、王亞倫社長)の取材です。2019年、王亞倫社長に「取材に行きます!」と固い約束をしながら、新型コロナウイルスの流行でそれが果たせぬまま3年余り。ようやく再開できた最初の海外出張です。 久しぶりの海外取材というワクワク以外にも、心躍る理由はたくさんありました。それは懐かしい方々との再会。 1991年、台湾の冷凍食品業界団体設立の際、私はその設立セレモニーの取材に参りました。以来30余年、桂冠(Laurel)の発展を現地で確認できることが興味深いのはもちろんのことですが、王亞倫社長の実父で当時社長だった王正一氏、同氏の弟で現会長の王正明氏との再会を果たすことができました。また、1990年に東京の日本冷凍食品協会事務所で出会って以来、親しくして頂いている陳建斌氏(当時台湾政府農業委員会の加工食品担当官、後に生産局長、前財団法人農業科技研究院院長、現財団法人台湾香蕉(バナナ)研究所董事長)との面談も旧交を温める嬉しい旅でした。 ▲1991年に取材した桂冠實業創業者王正一氏(前列㊥)、王正明氏(同㊨現会長)と嬉しい再会 さらに、台湾食品業界の女性経営者で構成する、台湾WF-NETの歴代会長との懇談もスケジュールにありました。台湾WF-NETは、日本のWF-NET(食品業界女性経営者ネットワーク、2014~)が2013年に台湾視察をした時の交流会を機に設立された団体です。桂冠實業の王亞倫社長も、もちろんメンバーの1人。 ▲台湾WF-NETメンバーとも3年半振りの再会 ▲桂冠實業の王亞倫社長(台北市内の同社ジョイン・キッチンで) 日本のWF-NETは、食品業界の中でかなり少数派である女性経営者の交流の場として発足しましたが、台湾では「女性の方が強い!」とよくうかがいます。実際、台湾WF-NETメンバーの皆様にお目にかかるたびに、いつも元気なパワーを頂くことができます。 「湯圓」市場シェア90%、鍋用具材50%超、レンジ食品50% さて、「桂冠」ブランドの主要冷凍食品を紹介しましょう。 ▲市場シェア約90%を誇る「湯圓(タンユエン)」 まずは、「湯圓(タンユエン)」。台湾で日常愛されているもち米団子(デザート)です。冬至の時には必ず食べるという風習があります。丸い形から「円満」を願うそうです。団子の中身は、黒胡麻あん、小豆あん、ピーナッツあんををはじめ、さまざまなバラエティがあるほか、あんの無い小さなサイズもあります。 ▲日本ブランドとのコラボも多数。からだの外からもお腹の中からも温めるユニクロ・ヒートテックコラボ!! ▲小湯圓 日本ではタピオカミルク以来、台湾食品のブームが続いていますので、湯圓ファンになっている若い女性もいるようです。私は、久しぶりに食べましたが、その美味しさと進化ぶりに驚きました。 もちろん湯圓を作るメーカーは他にもありますが、なんと、桂冠ブランドは市場シェア90%。圧倒的な美味しさ、品質で他の追随を許しません。 その秘密は、厳選したもち米を仕入れ、古来の方法に基づき団子を作っていること。白玉粉から製造する他社製品とは格段に差別化されているのです。 ▲桂冠第二工場に搬入された湯圓の原料もち米 新北市(台北市北部)の第二工場に毎日入荷されるもち米です。このこだわりが高品質の理由。 鍋料理のことを台湾では「火鍋」と書きますが、さまざまなスープで食べる鍋用の各種具材も「桂冠」ブランドの得意カテゴリーです。市場シェアは50%超えです。 スーパーの売場を視察すると、ちょうど鍋シーズンの盛りなのでずらりと並ぶ鍋用具材。売場は消費者ニーズに合わせてブランド別に陳列していました。その中で「桂冠」は扉2枚分と圧倒的な品揃え。しかも価格レベルが高いのにもかかわらず売れていました。 人気№1の具材「桂冠蛋餃」(卵餃子)は、魚すり身の具を卵の皮で包んだ水餃子です。卵焼きにスープが浸みてジューシー。食べてみると、なるほど~と人気の理由が理解できます。 ▲圧倒的人気の鍋用具材「卵餃子」 需要が伸びている新カテゴリーはスパゲティ、炒飯です。高さのあるトップシール容器に入っていて、少しシールを開けてレンジ調理でOKです。このレンジ対応商品でも「桂冠」ブランドは約50%の市場シェアを獲得しています。 実は、かつて取材した台湾のメーカーはほとんど経営母体が変わっています。唯一、変わらずトップブランドとして発展したのが「桂冠」です。王亞倫社長から「イノベーション、誠実さ、責任感をキーワードとした家族経営企業」と紹介がありました。現在経営の中枢にいるのは王社長はじめ創業者兄弟の姉弟たち、つまり従兄弟同士です。 ▲営業・マーケティングを統括する王振宇副社長(手にしているのは新規事業製品、高齢者向け栄養食品) 王振宇副社長は営業・マーケティングセンター統括。手にしているのは、2018年から取組んでいる新事業、高齢化社会に対応した高たんぱく栄養スープ・健康食品です。専門医や健康雑誌とコラボした開発商品です。 1970年設立のきっかけは「大阪万博」、以来台湾の冷凍食品業界をリード 創業者、王正一氏によると、冷凍食品事業を始めたきっかけは、1970年の大阪万博訪問。王氏の家業は製氷業でしたが、冷凍冷蔵庫が普及しはじめた時代です。家庭で氷ができるようになり、事業の先細りを予感し始めた頃に、大阪万博でひらめき、冷凍食品事業会社として桂冠実業を設立しました。 日本にとっても大阪万博は、冷凍食品を活用したセントラルキッチンの威力を実証したイベントです。また、米国発のファストフードの可能性を確認した年でした。 冷凍食品を活用した家庭団らん料理を広める 今回のトピックスのひとつ、それは、桂冠が食卓フォーラム「好好説頓飯」を世に投げかけていること。2018年からの取組みで、家族で楽しくお話しながらの食事、という意味です。冷凍食品を素材にさまざまなメニュー提案をする拠点となるキッチン「桂冠窩廚房」(Joy’in Kitchen)も台北都心に設けています。 台湾は日常の外食が根付いていますが、家族で冷凍食品を使った料理をして、楽しい時間を過ごしましょうという提案は、ある意味斬新なプロモーションと言えそうです。家族の食卓が基本と考えてきた日本で、個食が増えてきたこと、そんな時に冷凍食品が活躍していることを考えると、相反するトレンドで冷凍食品がそれぞれ伸びていることに驚きます。 来年4月、屏東に第三工場、保税機能いかして世界へ 大きなトピックスは、来年4月、桂冠第三工場が台湾南部の屏東・農業科学パーク内に完成することです。桂冠の冷凍食品売上は、コロナ禍によって7%アップの実績(2021年)とさらに大きく伸ばしているそうですが、都心の第一工場、第二工場はフル稼働。そして人手不足の悩みがありました。南部に最新の新拠点を設けること、さらに、工場スペースに余力を残し、保税機能を生かして国内外企業とのコラボレーションを計画しています。 ▲2024年に完成する桂冠第三工場は保税機能を持つ加工施設 確かに台湾南部で保税機能のメリットを生かせば、同新工場を生かして製造し、東南アジア圏への商品供給も可能です。もちろん台湾マーケットで人気の日本仕様(日式)商品をトップメーカー桂冠の販売ネットワークにのせることもできそうです。 同社では既に1995年中国・上海に工場を設立し、上海地区で、鍋用具材トップメーカー、湯圓市場シェア30%など、華東地区の冷凍食品リーディングブランドの地位を築いていますが、王亞倫社長は、「第三工場の完成を契機に国際戦略を加速させます」と今後の夢を語ってくれました。 桂冠:Laurelが世界の冷凍食品ブランドとして躍進する時代。ぜひ見届けたいもの。もちろん日本企業のブランドの世界進出もです。 冷凍食品を追いかけて42年目の私ですが、これは50年目くらいまでを目指して頑張らねばならないなぁと思った次第。頑張ります。